ドライブレコーダーの駐車監視モードは電装品の知識が必要になるため、オルタネーターや各種バッテリーの特性を理解しておかないと正しい組み合わせができないばかりでは無く、最悪車両火災へと繋がる可能性があるので、注意してもらいたいポイントを含めて今まで得た知識を公開することにした。
同じことをしようとしているユーザーの参考になれば幸いだ。
■この記事に使っているバッテリーの意味
・バッテリー
二次電池全般(主にニッケル水素・鉛・リチウムイオン系バッテリー)
・鉛バッテリー
鉛タイプのバッテリー(エンジン始動用、UPS・無線電源用他)
・スターターバッテリー
エンジン始動に最適化されているバッテリー(鉛・リチウムイオン系バッテリー)
・リチウムイオン系バッテリー
リチウムポリマー・リチウムイオン・リン酸鉄リチウム等のバッテリー
■バッテリーの知識
・ドライブレコーダーは思っている以上に電気を消費する。
シングルカメラで約3W程度の消費電力だが、24時間稼働させるとなると72W/h必要な計算になる。12Vのバッテリーで動作させた場合、日に6Aも消費することになる。大型自動車のバッテリーですら40A~50Aの容量しか持ち合わせていないうえ、ある程度の残量がないとエンジンを始動できないので、対策をしていないとあっというまにバッテリーは上がってしまう。
・駐車監視モード使用時の電源は鉛スターターバッテリーを共用することが多い
ハイブリッドカーや電気自動車を除いてエンジンの始動には鉛スターターバッテリー(鉛バッテリーの一種)から電力を供給してセルスターターを回す。その鉛スターターバッテリーは駐車監視モード使用時の電源として利用することが多い。
・スターターバッテリーは一定のバッテリー残量が必要
ジャンプブースターの性能を見てもらうとわかりやすいのだが、エンジンの始動時には100A以上という大電流が必要になる。ある程度バッテリーに残量が無いとこの電力を供給できない。すなわち、スターターバッテリーは容量を全て使いきることはできない。
・鉛バッテリーはバッテリーの残量が減ると劣化が進む
スターターバッテリーは基本的に鉛バッテリーが主流だが、鉛バッテリーは常に満充電の状態が望ましいとされている。駐車監視モード時の電力供給源にすれば当然残量が減った状態が長時間続くことになる。残量の件と合わせて鉛タイプのスターターバッテリーを電源にするのは短時間の録画が限界という結果になってしまう。
・バッテリーの電圧よりも充電器の電圧が高ければ高いほど充電効率があがる
水圧と同じで、高い電圧をかけるほどバッテリーへ大きな電流が流れる。だが、バッテリーには充電電圧・電流に制限があるため、電圧が高ければ良いというものでも無い。
・バッテリーには充放電時の許容量がある
鉛バッテリーはリチウムイオン系バッテリーに搭載されているBMSといった制御回路は無いため、充電器・放電側で制御をする必要があるのだが、指定値を超えて充放電をすると劣化が進む。許容量を超える走行充電器を組み合わせるなどして、過度の充電電流を供給すると可燃性ガスの大量発生や密閉型バッテリーの場合は筐体の膨張・破裂(爆発)を招くため危険。リチウムイオン系バッテリーはBMSという監視システムが回路を強制的にカットしてしまう。
※BMSは全てのリチウムイオン系バッテリーに搭載されているわけでは無いので要注意
・バッテリーは指定された電圧を供給しないと満充電にできない
電圧を上げすぎると危険なら低い状態を維持して充電すれば良いという訳でもない。指定された電圧に達しないと満充電にならない。バッテリーの種類のよっては、0.1Vの電圧でも容量換算で10%以上もある場合もあるので侮れない。
・バッテリーは充放電を繰り返すと劣化が進む
走行充電に加え、50Wのソーラーパネルを併用して24時間ドライブレコーダー常時録画の駐車監視モードを運用していたが、たった2年で鉛スターターバッテリーの寿命が尽きてしまった。鉛バッテリー以外でも程度の差はあれ、充放電を繰り返すことで劣化していく。
・バッテリーは充電がある程度進むと充電効率が落ちる
充電が進むにつれて、バッテリー内部は化学反応を起こした分子が占める割合が増えていくため未反応の分子密度が低下する。そのため、内部端子に接触する未反応分子の量が低下して充電効率が落ちる。リチウムイオン系バッテリーの高速充電が80%までという制限はここから来ている。
・鉛バッテリーは充電時に可燃性のガスを発生させる
このガスは水素と酸素で、点火源があれば爆発するため排気や換気が必要になるので、ディープサイクルバッテリーにはガス排気チューブが取付けられるものがある。ガスが漏れにくい密閉型のシールドバッテリーもあるが、限界を超えた充電電流を流すと、筐体が膨張し破裂する危険がある。当然、そこに点火源があれば発火する可能性は十分に考えられる。
・リチウムイオン系バッテリーは深放電に強い
鉛バッテリーはディープサイクルバッテリーといえども、上記の制約から頻繁に定格容量の全てを使い切る使い方には向いていない。リチウムイオン系バッテリーは深放電から充電すると寿命が短くなる傾向は同じだが、3000回の100%充放電サイクルでも定格容量の80%をキープする性能を持っており、ディープサイクルバッテリーとは比較にならないほど深放電に強い。
・リチウムイオン系バッテリーは充電時以外でも発熱・発煙・発火の可能性がある
鉛バッテリーは充電時に可燃性ガスが発生するため爆発の可能性はあるのだが、適切な対処で運用することで安全に利用できる。リチウムイオン系バッテリーは突然暴走して発熱や発煙、最悪の場合発火する可能性がある。
■車両の発電能力と充電の知識
・自動車の発電能力はオルタネーターの性能で決まる
自動車の発電能力は搭載しているオルタネーターの定格電流値を参考に。
・オルタネーターの発電量はエンジンの回転数により変動する
オルタネーターは常に定格電流を発電しているわけでは無い。エンジンの回転数が高いほど発電能力が上がるため、アイドリング・巡航時は思っているほど発電できていない場合がある。
・エアコンや灯火類を使うほど余剰電力は減る
エアコンのブロアーやヘッドライトなどの灯火類、年々増えていく電子装備は使えば使うほどオルタネーターで発電した電力を消費して余剰電力は減少する。
・直流は電線が細く長いほど抵抗により電圧が下がる
5.5spの配線5mに30Aを流した際の電圧降下は約1V。サブバッテリーを使う場合は太い配線を短くして利用することが理想的。末端の電圧でバッテリーを満充電にできないならば昇圧が必要になる。
・走行充電器(アイソレーター)は昇圧回路が無いと供給された電圧がさらに低下する
走行充電器に使われているダイオードという電子部品が電圧を0.6~0.7V降下させるため走行充電器を通すと電圧が降下する。そのため、昇圧回路を搭載していないとバッテリーの満充電電圧に達しない組み合わせになることが多い。
・充電制御車は電圧が低い
充電制御車は常時オルタネーターが発電しないため電圧が13V近くまで下がることもある。この状態だと、サブバッテリーはまともに充電ができないため、充電制御車対応(昇圧機能付)の走行充電器が必要。
・バッテリーの温度に注意
真夏の炎天下では車内の温度が日陰でも45度程度、直射日光に晒されている箇所は70度を超える。当然バッテリーにも影響があるため、バッテリーの保管・充放電時の適正温度はしっかりと確認しておくこと。氷点下になるような寒冷地では冬も注意が必要。
・サブバッテリーへの電力供給はバッテリーから直接配線加工が必要
シガーソケットやヒューズからの電源取出しでは10A程度が供給限界のため、サブバッテリーの充電に使う配線はバッテリーから直接引く「バッ直」を推奨する。
・バッテリーの充電性能も重要
バッテリーの充電電流と容量を計算して満充電にどれだけ時間が必要か計算しておくこと。走行時間が短いとバッテリーを満充電にできないため、費用の無駄になってしまうこともある。
・一部のハイブリッドや電気自動車はモーター駆動用バッテリーから補機用の12V鉛バッテリーに電力を供給している
ハイブリッド(マイルドハイブリッドは除く)や電気自動車は電装品のために12Vの補機バッテリー(鉛バッテリー)が搭載されているが、このバッテリーは容量が減るとモーター駆動用のバッテリーから電源が供給されるモデルも有るようだ。その場合は大容量のバッテリーが使えることになる。
アクアクラスでも0.9kWh(900Wh)の容量があるため、それを全て使えると仮定すれば、シングルカメラモデルで10日以上連続稼働が可能になる計算だ。だが、あくまでも仮定の話。
また、補機バッテリーを上げてしまうと復帰が大変な車種もあるようなので要注意。