Tacometer

フェアレディZは日産の車種としては1969年から続く息の長いブランドであり、Z33は5代目にあたる。

発売は2002年から2008年。後に、失われた20年と言われる長期の不景気のなか、各メーカーがスポーツカーの販売を取りやめる状態にあっても、粘り強く販売し続けていたモデルとして印象に残っている。

現在はGT-Rにその座を譲ったが、Z33の発売当時は日産スポーツカーのフラッグシップモデルとして、毎年細部を改良しつつ、エンジンの変更を含み3回のマイナーチェンジを最終的に行なうなど、GT-Rの登場まで精力的に開発されてきたモデルでもある。

現在では6代目のZ34が発売されているが、カスタムベース車としては価格がこなれていること、また、市場の在庫が多いため安価ということもあり、大排気量NA、FR車に憧れるドライバーの受け皿となっている。

と、さわりの紹介としてはこんなところだろうか。

すでに、最後の後期型を買ったとしてもZ33は10年近くたっているモデルだ。古い車だが時代を感じさせない独特のフォルムは、見る角度によって時折エキゾチックな雰囲気を感じる。

リア

特にリアからの眺めは、ドッシリとした下部とすらっとした上部のフォルムが美しい。

あえて、ノーマルの車両を買ってきたが、これをカスタムして変えるのは正直なところ少し抵抗がある。だが、同時に「まだ落ち着くには早い」という老いに対する焦りのようなものもあるのも事実だ。

たが、フロント周りは時代を感じるデザインで頂けない。最新のZ34と比べ、ヘッドライトとフロントバンパーのデザインはどうしても時代を感じさせてしまう。これは後に社外品に交換する予定だ。

もちろん、カスタムパーツが付いている中古車を買うという手もあったが、個人的に「人が手を入れた車はどのようになっているのか分からないので怖い」というのが私個人としての意見だ。

中古市場というのは、ある意味では売ったもの勝ちのようなところがあり、汚いやり口の業者から知らずに酷いものを掴まされると、後々の修理費用で泣きを見ることは明らかだ。

その点は、別の記事でまとめる予定だが、中古車を買うというのはZ33に限らず、ある意味、若干の博打的要素があることは否めない。

カスタムベースとしての車両を買うにしろ、やはり手の入っていないノーマル車両は安心して購入できる部類と言える。

そして、ノーマル車両だからこそ、ノーマルの状態がどのようなものかも理解できるし、カスタムした際の変化も楽しめる訳だ。

私のZ33だ

そんな、ノーマル車両に試乗した印象は「何も感じない。」だった。これは、悪い意味で言っているわけではない。

しなやかで大人しい足回りは心地よい乗り心地を生み出し、高い防音性はロードノイズやエンジン音をキャビンに飛び込むのを抑える。3.5リッターのV6エンジンが生み出すトルクは6速でも踏めばグンと加速するほどで、車幅が気になる以外はとても運転しやすかった。

ステアリングを握り走っていると、余りにもしっくり来るので、自分の車でも運転しているかのような錯覚さえ覚えてしまうほどで、結局その車両に決めてしまった。

その後、手元に来た車両を半月ほどノーマルの状態で乗っていたが、運転していて常に感じるのが車重とボディ剛性だ。

購入前にカスタム車に試乗させてもらった時から常に感じているのだが、この2点がZ33の特徴とも言える。

タワーバー

ボディ剛性はノーマルの状態でも各所に補強が入っており、特に目立つリアのタワーバーは、トランク容量を埋めてしまうデメリットをあえて選択してまで補強を優先するという設計思想を見て取ることができる。結果、リアをガッシリと固定して車両の挙動に一体感を与えるのに一役買っている。

そのボディ剛性の高さ故に、補強パーツはそれほど必要とされておらず、アフターパーツにボディ剛性を上げるパーツが少ないことがZ33のボディ剛性の高さを物語っている。

ボディ剛性の足りない車は、足回りに良いパーツを入れても働かないし、グリップ力の高いタイヤを履くと負荷でボディが歪むなど弊害が多いため、まず補強から入るのが自己流のカスタム論なのだが、Z33は補強の必要性を感じない。それほど高いボディ剛性がある。

しかし、全てではないが、高いボディ剛性を生み出すために最終的に約1.6tというとても重たい車に仕上がってしまっている。

Z33の車重は、Z33の設計そのものから来るウィークポイントであり、どのようにカスタムしても、常につきまとう問題として最後の最後までついてまわるだろう。

この車重のせいで、車の挙動は鈍重で、タイヤ、ブレーキ、サスペンション、挙げ句の果てにはホイールまで大きな負荷がかかる。

サーキット走行にいくつもりはないが、サーキット走行をしようものなら高剛性の鍛造ホイールですら使い捨てにする覚悟が必要になる。

足周り

そして、この車重を受け止めるはずのブレーキは制動力に不安を覚える。街乗りなら不安はないが、少し流すと途端にスポンジーなブレーキが危うさを覗かせる。Bremboブレーキを搭載したVersionSであるにもかかわらずだ。

Z33でスポーツ走行をしたいのであれば、最初にカスタムするのはブレーキになるのは間違いないだろう。速く走るためには、そのスピードを受け止めるだけのブレーキ容量がないと危険だ。

だが、足回りは良く出来ている。私が入手した車両は中期のため、前期と違いサスペンションが改良されているモデルになる。

ノーマル車両の中では硬めに感じるが、同時にしなやかで中程度の衝撃ならバタバタと暴れない。さすがに強い突き上げは少しバタつくが、それでも直ぐに収まる。

車重のせいでノーズの入りが悪いのは仕方ないが、スポーツサスに交換すれば、少しはシャキッとした反応になるだろう。NISOMOのサスを入れていたカスタム車両では、ステアリングの動きに対して反応が良好だったのを覚えている。

鈍いと言えばエンジンも鈍い。試乗したカスタムカーはROMを書き換えた前期だったが、それと比較すると明らかに鈍いと感じる。マイナーチェンジにより前期より回るようになったと言われる中期モデルでも鈍いと感じる。

だが、エンジンが貧弱というわけでは決してない。アクセルを踏み込むと3千回転からエンジンの咆吼が聞こえて絶大なトルクが車を押し出す。

ノーマル車両なのでエギゾーストノイズは殆ど聞こえないが、代わりに魅力的なエンジン音が耳に飛び込んでくる。がさつなエンジン音は聞くに堪えないノイズでしかないが、Z33のエンジン音は心地よい唸りだ。

VQ35DE

だが、まだ完全に解放はされていない。スロットルを開けて高回転まで回すと、エンジンルームに押し込まれて窮屈そうにしている音が聞こえてくる。まるでエンジンが「解き放ってくれ」と言わんばかりの音だ。

まだ、先のことになるだろうが、エキゾーストマニホールド、触媒、マフラー、ROM書き換えでエンジンを解き放ってやろうと思う。

しかし、まだ先にやることは残っている。カスタムの方向性を走りに向ける前にオーディオだ。

Z33は車内が静かなのでオーディオの音も良く聞こえる。VersionSのためBOSEのオーディオは入っていない。それでもZ33のノーマルのオーディオは他車のノーマルのオーディオと比べると良い音質だ。

もちろん、ノーマルの中での比較であって社外品と比べるとやはり劣って聞こえるのは仕方がない。ここは最初から変えるつもりだったので、あえてノーマルのオーディオのものを選択している。

CDデッキという10年以上も前に逆行したかのような装備を見せつけられると、この車の年代を嫌でも感じるが、ブレーキの次に手を入れて今の時代に合わせてやる予定だ。

だが、腐ってもZ33。古くても元日産のフラッグシップスポーツカーだけあって、古い車ながら電子制御が入っている。故に「淑女はケツを振らない」のだ。

VersionSにはTCS(電子制御トラクションコントロールシステム)ではなく、上位のVDC(ビークルダイナミクスコントロール)が装備されている。

これはタイヤの空転だけでなく、姿勢制御を含めて車両をアシストする機能であり、FRに乗り慣れていない私のような人間にはありがたい。

もちろん、ドリフトや走りに徹する人は邪魔に思うかも知れないが、流す程度の人間には安全装置として役に立つ。

電子制御の介入は他にもある、電子スロットルの制御はラフな操作をいなす制御になっており、1/3程度踏み込むとスイッチが入ったようにエンジンが吹け上がる、非リニアな反応を示す。

これは、がさつな人間が操作しても安定した走行をする上で大切なのだろうが、何も考えずに運転しても、ハイブリッドカーのエコ運転でドライブコンピューターから高評価をもらう人間としては今ひとつしっくりこない。

だが、繊細な扱いをすると逆に下手な動きになる最近の電子スロットルよりか、はるかにましな味付けだといえる。Z33の電子スロットル制御は、電子スロットルの中では、どちらかというとワイヤー制御の動きに近いものがある。

この電子制御もROMの書き換えで変更できるので、気になるところではあるが今は我慢の時だ。

ノーマルのZ33

今はまだノーマルのZ33に乗り、Z33そのものの素性を知ることが先だ。

横幅が広いから狭い道では気を使うし、後ろが見えないのでバックの際は気を使うなど、まだまだ普段使いで慣れていないところもある。

幸い、田舎なので燃費は最高で12.5km/Lが出たとあって、Z33に慣れるためにドライブに出てもそれほど負荷にはならないのは嬉しい誤算だった。昔のスポーツカーと言えばリッター5kmや3kmという燃費が珍しくない事を考えると、随分と燃費が良くなったものだと技術の進歩を感じる。

それでも、Z33は10年前の車であり、前時代的な車となりつつあるのは否めない。しかし、可能な限り長く乗り続けたい。心から、そう思う車両を手にできるのは、好事家としては嬉しい限りなのだから。