換気用ケースファン

炎天下に駐車した車両のドライブレコーダーで駐車監視モードを利用していると、過熱により録画が停止することが度々あったため、前回40mmケースファンとソーラーパネルによる冷却システムを導入したのだが、ある程度の改善はできても過酷な真夏では過熱停止することは避けられなかった。

その後、対策については何も思い浮かばない状態だったのだが、車内の換気により車内の温度を下げて、40mmケースファンの冷却効率を上げるというアプローチが実現可能となったこともあり、さっそく試してみることにした。

■車内の強制換気方法と有効性

今回、車内の換気により車内の温度を下げるという試みについては2つの大きな問題をクリアする必要があった。

1つ目は、車内と車外とを繋ぐ通気口が必要になることだ。だが、車体に穴を開ける訳にもいかず、最初はエアコンの風を起しているブロワーを逆回転させることで排気をする方法を考えたのだが、ブロワーの消費電流が数十Aと大きすぎて調査の段階で無理だと分かった。

そこで、換気に使えそうな穴が無いかZ33のドンガラ写真を検索していると換気口らしき形状のパーツが有るのに気がついた。

換気口

その箇所はラゲッジルームの内装を剥がすと出てくるのだが、換気口らしき箇所が2箇所ほど左右に用意されている。換気口かどうか実際に内装を剥がしてアクセスしてみたが、予想通り換気口だった。

陽圧の時だけゴムカバーが開く弁

この換気口は車内が陽圧の時だけゴムカバーが開く弁が取付けられているため吸気には使えない構造になっている。マフラーが近いため排気ガスが車内に入ってくることを想定しての構造だろうが、この構造のため換気をする場合は排気にしか使えない。

運転席側は工具が収納してある

また、リアの2箇所の内、運転席側は工具が収納してある箇所なので、ファンを取付けるスペースもなければスチロール製の内装に導風用の加工はできそうにない。

助手席側は一部モデルでBOSEのアンプが搭載されているが、この車両はBOSEオーディオ非搭載モデルのためこの箇所には何もない。色々と手を加えるには十分なスペースだったので、換気用のファンを取付けるならこちら側だろう。

次にもう1つの要素だが、本当に換気で車内の温度が下がるのかという問題だ。これについては以下の資料を参考にさせてもらった。


研究資料では換気流量150m3/hの際、換気をしない場合の車内温度75度と比較して45~50°Cまで温度が低下したと記載がしてある。20度も温度が下がるのならドライブレコーダーの冷却にも相当な効果が期待できる。

だが、この冷却効果は吸気ダクトをフロント側に設けている環境で計測しており、車両そのままの状態で強制換気したとしても試験と同等の効果が見込めるかは不明だ。

また、150m3/hの流量が確保できるのかという問題もあるのだが、1m3はリットル換算で1000Lとなるため、150,000L/hもの流量を排気する必要がある。数値だけだと無理だと感じてしまうのだが、これについては意外にもクリアできそうだった。それは、手元にあった120mmのケースファンの性能を試しに調べてみたからだ。

CF-1212025LB

ケースファンはCFMという数値が仕様に記載されているが、これも流量の単位だ。手元にあった120mmケースファンのCF-1212025LBの流量(風量)46.8CMFを換算してみたところ79.5m3/hとなった。

150m3/hとまではいかないが、換気に使うには若干頼りなく感じる120mmケースファンでもこれだけの流量が出せることに驚いた。

もし、150m3/hの流量が必要な場合は約88CFM有ればよいことになるが、120mmケースファンにはそれ以上の数値のモデルが多数有るので、電源供給さえクリアしてしまえば十分に対応ができそうだ。

これで2つの大きな問題は片付いた。次は検証のためにテストに移ることにした。

■車内の強制換気を試す

シュラウドを設計

手始めに換気口に合せてシュラウドを設計してみた。これは、ケースファンの起した風を効率良く車外に排出できるようにするために用意したものだ。

シュラウドといえば、チューニングではインタークーラーやオイルクーラーに取付けるパーツとして知られている。この場合は、走行風を逃がさず、冷却フィンに送る空気の量を増加させて冷却性能の向上を図るものになる。

今回のケースでは、シュラウドを設置することでケースファンの発生させた風を逃がすことなく換気口へと導きつつ、換気口の弁を風圧で解放するために必要な圧を逃がさないようにする。

CF-1212025LBを組み込み

シュラウドと組み合わせるケースファンは先ほど登場した120mmケースファンCF-1212025LBになる。仕様は12V 0.18Aで1200rpm流量は 46.8CMF(79.5m3/h)だ。

勢いよく排気されているのを確認

テストとしてCF-1212025LBを12Vシールドバッテリーに接続してみたが、風圧により換気口の弁が開き、リアバンパーのタイヤハウス後部から勢いよく排気されているのを確認できた。

12V 3Wソーラーパネル

十分な手応えを確認できたので、別の用途向けにストックしていた12V 3Wソーラーパネルに繋ぎ、実際に炎天下での実用性を数日間テストしてみることにした。
※以下のテストは8月中旬から下旬にかけて実施

テストでは、通常であれば温度警告が出てくる11時頃でも警告は出ておらず、特にドライブレコーダーが過熱停止することが多い13時頃では希に過熱で録画を停止することがあったが、この時期の晴天時はいつも停止していたことを考慮すれば改善の兆候が見えているといえる。

これでも120mmケースファンは全力で稼働しておらず、さらに冷却効果が期待できそうな状態だったためシステムを一部組み直すことにした。

120mmケースファンの稼働が全力にならない理由はソーラーパネルの特性によるもので、ガラス越しによる太陽光の減衰効果と熱によるソーラーパネルの発電効率低下が原因だ。

今回使用した12V 3Wソーラーパネルの発電電流は0.25Aとなっているが、車内温度と角度によっては、ガラス越しの最大発電効率は屋外使用時と比較して半分以下まで低下する。

仮に半分まで低下すると想定すると発電電流は0.125Aになるが、CF-1212025LBの消費電流は0.18Aのためファンブレードは回転しても全力で回転しない。そこでソーラーパネルをもっと大型の物に交換して対処することにした。

ALLPOWERSの7.5Wカーソーラーチャージャー

新しく用意したのはALLPOWERSの7.5Wカーソーラーチャージャーだ。元々、長期間駐車したままの車両に取付けてバッテリーを補充電するためのアイテムだが今回はソーラーパネル部分だけを使う。

配線変換方法

発電電流は最高で0.41Aという仕様なのでガラス越しで最高0.2A程度の発電が期待できる。CF-1212025LBの定格電流が0.18Aのため、太陽が高い位置にある時間帯は全力でケースファンが回転することになるはずだ。

どの程度電力を供給できているか確認のためケースファンに接続した状態で計測してみたところ、最高で16.2V 0.1Aの数値を計測し、予想通りCF-1212025LBは全力で回っていた。
※8月中旬13時頃 晴天時 ソーラーパネルリアガラス貼り付け状態にて計測

12Vシステム用のソーラーパネルは開放電圧(無負荷電圧)が18V以上あるため、発電電流に余裕が出るとこのように電圧が上昇してしまうが、電圧が上がりすぎるとケースファンが故障してしまう。

そこで、電圧を下げる効果を含め、効率が良く静圧を確保できるケースファンに切り替えることにした。

X-FAN RDL1225S(17SP)

最初に導入したのはX-FAN RDL1225S(17SP)になる。仕様は1,700rpm 0.18A 71.75CFM(121.9m3/h) 2.46mmAq(24.1 pa)流体軸受だ。

定格電流がCF-1212025LBと同じ0.18Aなので効率が良いと考え導入したのだが、ソーラーパネルに対して負荷過大で全力回転しない。

不思議に思いテスターで計測したらCF-1212025LB の実測電流が12V時0.08Aだったことが判明して謎は解明されたのだが、X-FAN RDL1225S(17SP)は全力で回転せずとも冷却効果は有効レベルに達していた。
※CF-1212025LBは始動電流が0.18Aだったので始動電流を表記している可能性有

だが、流体軸受けのため始動電流が大きく、ファンブレードが回転し始めるのは夏でも晴天時の10時頃になる。CF-1212025LBは9時頃でも回転していたため、ファンが回転する時間帯が短い。

また、全力で回転させるためには0.19A(実測値)を安定して供給し続ける必要があるため、太陽に雲がかかるだけでファンが停止するという状態で、これらの不満を解決するためCF-1212025LBと同じ2ボールベアリングモデルに切り替えた。

X-FAN RDL1225B(17SP)

新しく用意したのは2ボールベアリングモデルのX-FAN RDL1225B(17SP)だ。仕様はX-FAN RDL1225S(17SP)と同じ仕様で、軸受けの仕様だけが違う。

流体軸受に対してボールベアリングは軸受けの抵抗が小さい※。そのため、始動電流が小さい、もしくは始動電流が大きくとも短い時間で始動するため、今回のように電源が貧弱な場合でも回転しやすい。
※ケースファンの軸受に限っての話

実際にX-FAN RDL1225S(17SP)と交換してテストしてみたところ、9時頃でも回転するようになり、軸受け以外は同じ仕様にもかかわらず差が出ている。ボールベアリングもミネベアの国産ボールベアリングを採用しているため、軸からの異常な振動も無く寿命も期待できそうだ。

X-FAN RDL1225S(17SP)と同じく、発電ピーク時でも全力回転しないのは同じだったが、全力で回転せずとも冷却効果は有効レベルに達しているので、X-FAN RDL1225B(17SP)を採用することにした。

■車内強制換気の効果検証

このテストに合せてサーモロガーを助手席後の収納メッシュ部分に入れていたが、晴天時の比較で換気有りの場合と無しの場合、最高で6.7度の温度低下が認められた。日陰部分の温度のため、研究結果と比較すると車内の温度は大きく低下はしていないが、車内のむわっとした熱気が減少しており、体感でも暑さが減少していると感じるものがあった。

・強制換気なし
最高気温31.9度 車内最高温度51.4度 温度差19.5度

・強制換気あり( 3Wパネル+CF-1212025LB)
最高気温29.2度 車内最高温度44.7度 温度差15.5度 冷却効果-4.0度

・強制換気あり(7.5Wパネル+ X-FAN RDL1225S(17SP)
最高気温35.7度 車内最高温度48.5度 温度差12.8度 冷却効果-6.7度

・強制換気あり(7.5Wパネル+ X-FAN RDL1225B(17SP)
最高気温32.5度 車内最高温度46.6度 温度差14.1度 冷却効果-5.4度

※最高気温はアメダスのデータ参照
※温度計測箇所は常に日陰となる助手席後部の収納メッシュ部分
※車両は日陰にならない箇所に駐車
※計測は8月中旬から下旬にかけて計測

最終仕様は7.5Wパネル+ X-FAN RDL1225B(17SP)にしたが、この状態でドライブレコーダーの過熱状態がどこまで改善できたかというと、期待していたレベルまで改善ができている。

フロントが北向きの場合はドライブレコーダーの過熱警告は出ず、南向きにして停車しても12時頃にはドライブレコーダーの過熱警告が出始めるが録画は継続しており、その後も録画が停止することはなかった。

また、エンジンを始動してエアコンで車内を冷却すると1~2分程度で過熱警告が消える。40mmケースファン+12Vソーラーパネルのみの冷却だと、過熱警告が消える時間はもう少し長かったこともあり、ドライブレコーダーの温度が推奨動作温度まで下がってきていることが推察できる。

■ソーラーパネルの固定と内装加工

強制換気の有効性が確認できたのでソーラーパネルの設置位置を決定しようと考えたのだが、リアガラスの空いたスペースか、運転席の3連メーターの後側か、それとも助手席側のサンバイザー裏に取付けて展開するか迷ったのだが、最終的にリアガラスに張り付けることにした。

運転席の3連メーターの後側はフロントガラスに大きな写り込みが出てきてしまい走行中に鬱陶しく感じるし、助手席側のサンバイザー裏に張り付けて展開する方法は、そもそもフロントガラスよりも引っ込んでいるため、日が当たる条件が厳しすぎて実用に耐えられなかった。

リアガラスへの設置

リアガラスへの設置は配線の処理が一番面倒な箇所だが、安定して発電できる箇所で邪魔にならない箇所と言えばここしかない。

配線はラゲッジに垂らしている

配線については50Wソーラーパネルと同じくリアゲートとキャビンを繋ぐグロメットを通そうと考えていたが、後日の施工にすることにして配線はラゲッジに垂らしている。

スチロール製の内装

仕上げは内装の加工になる。スチロール製の内装を加工して、シュラウド部分が干渉しないスペースを確保しつつ、スペアタイヤの収納エリアまで導風口を開けて内装を戻していく。

スチロールカッター

スチロール製内装の加工に使用するのはスチロールカッターだ。ワイヤータイプも有るが、今回は幅が広すぎて使えないためロッドタイプを使うことにした。

スチロールがゆっくりと溶けていく

電源を入れてしばらくするとロッド部分が熱されるので、罫書きしたカットラインにロッドを当ててスチロールを溶かしながらカットする。ビニールが焼けた際に発する強烈な臭いと共にスチロールがゆっくりと溶けていく。

チロールのブロック

シュラウドとケースファンが干渉しない程度にカットしたら、ケースファンの目前に来てしまうスチロールのブロックを取り外す。これは両面テープで取付けてあるだけなので、力業で綺麗に剥がすことができた。

スチロールのブロックを取り外す

このブロックは上面の補強用のブロックのため、取り外すと剛性が落ちてしまうが、この部分に集中的に負担がかかるような荷物の積み方をしなければ大丈夫だろう。


スチロール製の内装を元に戻す

内装の加工が終わったら、全ての内装を元に戻していく。スペアタイヤの収納エリアから先は手を加えず、内装の隙間を通して導風することにしたが、車内の空気の流れが変わったことや、排気抵抗が出てしまうことで効果が減少している可能性がある。

内装を元に戻す

しかし、冷却効果が認められた時点で放置してしまい、内装を戻した時点で既に10月となっているため、この状態での検証は来年の夏に持ち越しとした。

他にも、運転時に稼働してしまうと車内の空気を排出してエアコンの効果が低下してしまうため回路にリレーを組み込み、エンジンが始動している間はリレーで接続を断つ計画や、温度によりON/OFFが自動的に切り替わるバイメタルタイプのサーモスタッドを取付け、車内の温度によって稼働する方法を考えているのだが、これらは今回保留した加工と合わせて今後施工する予定だ。

■最後に

18Wソーラーパネルの導入に始まり・50Wソーラーパネル交換チャージコントーローラー交換車内完結補充電システム作製サンシェード作製と改良・冷却ファン取付けと様々な対策を行なってきたが、今回の対策で、長きにわたるドライブレコーダーの駐車監視モードを常時使用するという目的は概ね達成することができた。

5月の導入から対策を考えては実行に移すことを繰り返したが、おかげで知識を広げ深める事ができたし、これで中断していたドライブレコーダーのレビューも完結させることができそうだ。

なお、ソーラー発電と同じく、今回の技術についてもキャンピングカーや車中泊で利用されている技術を参考にさせてもらっている。Z33で本格的な車中泊をする事はないと思うが、今回の検証が、少しでも車中泊や炎天下の車内冷却の役に立てれば幸いだ。